最高の推しを最高の写真にする方法1 #RAW現像編

●現像解説は目的が不明瞭であるためわかりにくい

    カメラを始めると一度は耳にする「現像」。フィルムカメラ時代にはよく使われた言葉ですがデジタルで「現像」とはなんぞや。

 よくわからんがその「現像」ってのをやってみたい!と思って調べるとRAWについての解説本やサイトはいろいろ出てきますが、どんな写真を撮るかを限定していないためにパラメータごとに別のジャンルの写真がサンプルになってしまって分かりにくいという壁に当たります。人物はここ、風景はこれ、実際はそんな単純ではないのに解説用に都合のいい写真を使ってしまう。だから応用ができないんですね。なので、ここではライブ写真に特化して必要なことと手段を解説したいと思います。


●RAWデータとは何か?

 意外とここから知らないままにjpg画像を補正して「なんでうまくいかないんだろう?」となってるケースがあるので基本からお話。RAWとjpgは完全に別物です。RAWは文字通り「生」のデータです。レンズから入ってくる光はデジタルカメラのセンサーでデータに変換されます。実際には光は様々な色がありますが、センサーはRGBの三色、いわゆる光の三原色にそれを分解して保存します。すなわちセンサーが認識できるのは赤、緑、青の三つの光しかない、ということです。これがそのまま保存されているのが「RAW」データです。

↑超雑に分解するとセンサーにはこのような状態で情報が入力される。 

 ではjpegに設定して撮った場合、何が起きるかというと、デジカメの中にある画像処理エンジンがこの三原色を混ぜて「元の眼で見た色に近い状態」を復元して「写真」を作ります。この際に、不要な色の情報や光の強弱などはカメラの設定に応じて全て間引かれてしまうため、いわば圧縮されたものがjpegです。もちろん昨今の画像処理エンジンは非常に優秀なので、多くの場合ではこの状態でも十分に美しい写真を出力することができるようになっています。

↑実際にはカメラ自体の設定で味付けはできるがだいたいこんな感じに映るはず。ただし、情報は固定されてしまっているのでここから大きく色味は変えられない。  

    要するに、RAWは「プラモデル」、jpegは「塗装済み完成品」というような違いがあります。優良なモデラーの作品であれば、それはそれで所有欲のあるものは手に入るわけです。

 しかし、RAWの状態でデータを残しておくことができれば自由に組み立てて塗装できます。反面、それをやらねば物ができません。そう、RAWデータはそのままでは観ることができないデータであり、単に無圧縮の高画質ソースというわけではないのです。

 これを観られるようにするのが、いわゆる現像ソフトということになります。

 生のデータから必要なパラメータを調整することで、色調、彩度、コントラスト、露出などなど様々な部分を自由に、そして劣化させることなく作り上げることができます。

↑RAW現像工程により大胆に色味の味付けを入れるとこうなる。

●RAW現像写真は「嘘」なのか?

 たまにこのような議論があります。確かに現像された写真は大胆に色味を変えたり、明るさを変えたりができるため、実際に観た風景とはかけ離れた雰囲気になってるものも少なくありません。故に、「jpeg撮って出し」こそが真実であり、「加工」された写真は「嘘」である、という議論が一部であります。

 しかし、前段を見ればわかるように、結局はカメラの画像処理エンジンがメーカーの思想にあわせて作った画であることに変わりありません。もちろん、エンジンはなるべく観たままの色味に近い味付けをしてくれますが、それでもメーカーごとに差があります。だって綺麗に映るほうが大半のユーザーは嬉しいですから。そのようなものの「真実性」に意味はあるのでしょうか?ならばRAWから起こして人間の手で「見たまま」を調整したほうが真実に近いかもしれません。そう、人間がやるか、カメラがやるかの違いであって、加工写真のような後ろめたい響きのものではないのです。

 そもそも、世に出てる商業写真はすでに「見たまま」通りの色調でそのまま世に出ていたりなどほとんどしないのです。


●君は推しの夢を何色で観るか?記憶色と記録色

 そもそも人間の記憶自体がいい加減なものです。実に。人間の記憶は特に楽しい思い出であればあるほど実際よりも鮮やかな色彩で記憶されている。したがって「見たままの色味」を再現したとしてもそれを「美しい」、あるいは「説得力がある」と感じるかは全く別です。

 従って、昔から特に次の三つについては写真の現像、もしくは印刷のプロセスでなんらかの加工をして世に出てきました。まずは「桜」。実際はほぼ白です。でもみんなが覚えてる桜はピンク色ですよね、なのでピンクを濃いめに調整されたものが多くの桜写真。次に「空」。日本の空はそんなには青くないです。ないですが補正や偏向フィルターを使って濃い青にされてます。そして「肌」。肌色なんて言いますが自分の手を見てみて。どっちかという黄土色ですよね。これも世に出る商業写真の多くは健康的にな色に調整されています。印刷業界の指定用語で「肌健康的に」という指定で通ってしまうくらいには共通された「記憶の肌色」があります。

 ましてライブ写真、記憶の中の推しはめちゃくちゃキラキラしてないですか?それを「現像」して再現したほうが真実ではないですか?例えば上段のサンプル、どっちが記憶の風景に近いと感じますか?(個人差は承知の上で)

 それが現像作業を薦める理由でもありますし、その作業に対して僕は加工という言葉は使いません、何より被写体が喜ばないですからね。ちなみに通説ではCanonは記憶色よりで鮮やか、Nikonは記録色よりでフラットと言われてます。現場のCanon率が高いのも納得ですね。


●機材に投資できない人ほど現像は力になる

 高価なボディのカメラは優秀な画像処理エンジンを持っており、最新の技術で困難な環境でもきちんと写してくれるものです。一方、そうでないカメラであるほど特にライブなどの現場では「撮れない」ことが多い。でも、それは単純にカメラの画像処理エンジン性能のせいかもしれません。カメラそのものには本当は必要な情報は記録されている。人間がそれをきちんと仕立ててあげられれば、意外なほど撮れ高があったりするものです。

   現像ソフトはメーカー製なら無料でDLできますし、Lrのような有償ソフトも月額1000円ちょっとで使うことができます。ゴールが「いい写真」だとしてそのために手間を惜しまなければ…現像ツールへの投資は下手なボディを買うよりもよほど効果的だと私は考えます。時間的にも膨大な数のjpgを撮ってアタリを出すよりももしかしたら効率がいいかもしれないですね。


●RAWのデメリット

 まずデータをいじらなければ世に出せません。ゆえに速報性を重視するならば限界があります。さらにデータが重いです。jpgと比較して5倍程度。もし速報性で戦おうとするならば、遅れを取ってしまう選択肢…とかつては言われていましたが近年はスマホにRAWを取り込んでLrのアプリでそのまま現像できるようになったため、効率よく行えば十分対応できる時代になりました。多くの場合、写真はSNSで見られることを考えるとスマホの画面での調整は最終的な色味に近いこともあって逆に合理的という声もあります。


●撮影時でのメリット

 後から補正が効く、ということで現場では比較的シンプルに被写体を追うことに専念できます。ただし、絞りやシャッタースピードなど光学系がもたらす効果をあとからいじるのは難しいのでこれらは適正値を理解しておく必要はあります。それ以外はかなり自由です。カメラばっかり観ててライブを観てない、そんなカメコにならずに済みます。


●ではやってみましょう

 Adobe製のLightroomを使います。メーカー純正の無料ソフトでも大半のことはできますが、弄れる幅の大きさ、効率性などから個人的にはおすすめです。慣れてきて自分の色味が出来てきたら、設定をプリセットに登録しておくことで効率化もできます。(ここでは分かりやすくするため全部のパラメータをリセットした状態にあえてしています)


●①露出を補正する 

 最初にいじるのは露出です。当たり前ですが、最低限「ちゃんと写っている」状態をまず作らないとそのあとの作業に意味はありません。写真に写っていてほしい要素が一通り見える感じになるまで露出を調整します。こだわらなければ、これで作業終わりでもいいくらいですね。「明るすぎる写真を暗くする」「暗い写真を明るくする」魔法のような工程ですが、万能ではありません。現場の光量がそもそも限界を超えてる場合は無理です。情報がないので白とびしたり、ぼやけた写真になります。こういう場合は逆張りでより暗くしてシルエットを強調したり、あるいは思い切り明るくしてまばゆさを強調するのも手ですね。


●②色調を補正する 

  一番変化が大きいパラメータであり、RAW作業の魅力の一つです。ここを次に調整します。基準は僕の場合は肌色です。肌色が一番美しく見えるラインを細かく調整しながら設定していきます。「美しい肌色」の定義は様々ですが、自分の場合は自撮り写真の肌色をベンチマークにします。だいたい色白に映るようになってますね。日本人には大きく、ブルーピンク系の肌色とイエローオレンジ系の肌色があって、前者は色白美人、後者は健康美人という感じです。化粧品メーカーのマーケティングでは前者を好む女性が多い、ということで、そちらに寄せるように調整します。実際にはライティングの様々な光が当たっていますが時にこれを大幅に変えてでも肌色を重視して作業します。結果的に写真全体が青く見えるのはそのせいです。

    背景が青みがかることで補色である肌色が立ち、人物の顔が目立つという効果もあります。

 ただし、髪の毛の色とのマッチングの問題もあります。茶髪や金髪に近い子の場合は髪色がくすむので必ずしもブルーピンクに全体を振ることが望ましくない、また寒色は全体が落ち着いた印象になりますから、本人のキャラクターと合わない、などがあります。微妙な違いなのですが、同じユニットでもメンバーによって微妙に色調を変えて、本人に一番似合う色を調色します。カラーヘアの子の場合はその色が映えるように補正することも。

 特に小さなライブハウスでは根本的に暗いので肌が暗いオレンジになりがちです。僕はこのオレンジをできるだけ補正して綺麗な肌色に戻しますが、カメコさんによっては逆に全体を暖色系にすることで、熱気ある雰囲気のほうに補正することで「嫌なオレンジ」を回避する人もいます。

    いずれにせよ色彩感覚はそれぞれですので自分の気持ちいい色を目指すといいと思います。


●③黒レベルの調整

 個人的には一番重要なパラメータです。多くの液晶画面は実は「黒」を写すのが苦手です。高級なディスプレイほど黒がしっかり締まって出せるようになっています。すなわち、黒がちゃんと黒い画像というものは無意識に「高級感」「説得力」を感じさせられます。なので潰れるギリギリまで黒レベルを強くします。

 それからもう一つ、レンブラントフェルメールなどでもおなじみのキアロスクーロという技法を意識してます、っていうとかっこいいですかね。推しって尊いじゃないですか。一番尊い存在って神じゃないですか。だからライブハウスに一番雰囲気が近い宗教画を探したら、それっぽい技法が見つかりました。要するに明暗のコントラストをしっかりつけて立体感を出す手法です。ライティングのライトを強調したいからといって、ただ明るくしても明るく見えません。そもそも白とびしちゃいますよね。なので、明るくするのではなくて、暗いところを暗くしてコントラストで明るく見せると。これには後述しますが色そのものを鮮やかに見せる効果もあります。

↑wikiよりジョバンニ・バリオーネ『神の愛対世俗的な愛』(1602年 - 1603年)こういうのを目指して尊くする。

●⑤シャドーの調整

 シャドーなんて名前なのでなんのこっちゃ。要するに暗めの中間調の補h正パラメータですが、わかりやすくいえば黒つぶれを修正するパラメータです。黒レベルをいじると、髪の毛が背景に馴染んだり、毛の流れがつぶれてしまって重く見えたりします、そこでこのシャドーを明るくするとあら不思議。髪の毛のディテールが黒いところはそのままに復活してきます。これによって背景と被写体のコントラストをつけます。

●⑥ハイライトの調整

 これもシャドーと同様、本来は白とびの軽減です。肌が白飛びしてしまうとテカリ肌にみえて美しくないので、これをさげて自然な肌にします。ここでもそのように使ってます。逆に肌の階調に余裕がある場合はあげてライティングを強調します。さきほどの黒いところをしっかり黒く、という作業とハイライトをしっかり明るくという作業が完了するとなんと!目の錯覚で挟まれた色味は最大25%鮮やかに見えるらしい。こうした色の対比現象を利用することで彩度そのものいじって色飽和を起こさせずに鮮やかな写真に見せることができます。なので自分は彩度とコントラストはほぼいじりません。これらは全体を無慈悲に濃くしてしまうので、色が潰れてしまうだけで、よほど狙ってやらない限りいい結果にならないと僕個人は考えています。

↑左の方がちょっとだけ鮮やかに見えたり…しますか?

●⑦露出の再調整

 これは実際は都度都度行います。黒レベルを強めることで露出全体をもう少し明るくできたり、逆にハイライトを白飛びさせずにあげるために露出全体を下げたほうがいい場合もある。ここでは黒レベル強め、ハイライトを抑えておくことで露出をもう一段あげて、コントラストを保ったまま全体を明るくしています。また、全体を寒色系に振るとそれだけで暗く見えるので、気持ち明るく調整してあげるとよりよくなります。


●⑧明瞭度とノイズ軽減

 明瞭度とは要するに写真をふわっとさせるか、かりっとさせるか。つまりディテールをどこまで出すかを調整するパラメータです。実際には最初に決めてしまうことが多いです。好みもありますが一つの現場の写真でここを大きく変えてしまうと「加工感」が強くなるので、できれば通して同じレギュレーションにしたいなというのが個人的なこだわりです。ただこれをどっちに振るかはそれこそ好みです。明瞭度をあげればディテールがはっきり出るため、現場の空気感も出ますし迫力のある写真になります。反面、アップ写真でこれをあげてしまうと特に女の子の顔はエグくなります。被写体の雰囲気や現場の雰囲気で正解は様々ですが、僕は基本設定を-15と置きます。ふわふわしすぎずほどよく綺麗に見えるラインがここかなと。引いた写真では数字をあげたり、ドアップだとより下げたりなど、写真ごとに微調整はしていきます。

    Lrではこれに加えてテクスチャという新機能ができました。明瞭度は実はその変更により明るさや色味なども若干変わってしまう欠点があったのですがこのテクスチャはそこを固定したままディテールを出したり、滑らかにしたりします。ただ、かなりつるりとしてしまい、嘘くさい肌になってしまうことから、自分はテクスチャはプラス補正で髪や衣装の質感を出しつつ、明瞭度をマイナス補正で肌を滑らかにします。肌の上に何か塗ってキレイにするのがテクスチャとするなら明瞭度は保湿液などを染み込ませてキレイにする感じとの印象が個人的にはあります。

    ノイズ軽減はISOが高すぎた場合などにかけます。かなり滑らかにしてくれますが、全体の雰囲気もだいぶ変わってしまいます。僕はどちらかというとこれを明瞭度の延長線上と考えて、ノイズを殺すついでに全体をなめらかに見せるのに使います。絵画的な風合いを目指す時にはオススメです。


●⑨部分補正

 これはLrの機能でなんとブラシで塗ったところのみを補正できてしまう!夢のような機能。被写体の明瞭度はふわっとさせたまま、背景の明瞭度をあげてミスト感や空気感、ライティングの光芒を強調する、などに使います。すごい!

 だいたいこんな感じで一枚完成です。

 大事なポイントは、無理はしないことです。どうしてもうまくいかないライティングは当然存在します。これに時間をかけたりしません。また、肌色にこだわるあまり、実際のライティングカラーに逆らいすぎても良い結果にはならない。あとは俗にいう「レタッチ」作業もしますがそれは粋じゃないから解説しません。しませんが、最前から肉眼で見えないものは見えなくていい、というのが自分の基準ですね。レタッチはついつい過剰になりがちですが、 何を消すかではなく、何を残すかを意識しましょう。肌はソフトにしたほうがいいですが眼は明瞭になっていた方が良い、部分補正で丁寧に処理するのが大事です。


    他にも「かすみの除去」「自然な彩度」「特定色域の調整」など便利な機能がいっぱいありますがそれはまた機会があれば。

 これは一つのやり方にすぎず、目的が違えばアプローチも変わるはず。なんのために現像するのか、そこに常に立ち返るときっと自分のやり方がみつかるはずです。なんにせよ面白いのでぜひ一度Lrなどのアプリに触ってみてください。モバイル版は一部機能制限ありの無料、PC版も7日間フル機能が無料です!

 

↓構図編はこちら!

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